飲食店でホールスタッフとして働く人にとって、「接客」は最重要テーマです。正社員であってもパート・アルバイトであっても、ホールスタッフとして勤務する以上は、お客様に対しては「お店の顔」という立場になるのです。どんなに料理がおいしくても接客がダメなら「この店はダメ」ということになってしまいます。逆に接客がOKなら、「おいしかったよ、ありがとう」というお客様の感謝の言葉を、お店を代表してホールスタッフがいただくのです。「ホールスタッフと接客」今回はこの大事なテーマについて考えてみます。
飲食店の接客の大切さとは
あらためて「接客」の大切さを確認してみましょう。飲食店に来店されたお客様へのアンケートや、インターネットを通して行われたアンケート調査の結果を取り上げて見てみると、それがよくわかります。お店の改善点などについての質問では、料理よりも接客に対する意見や、問題点を指摘する回答の方が多いということです。また、「料理はおいしいが接客がよくない飲食店についてどう思いますか」という質問に対しては80%以上の人が「行きたくない」と答えているそうです。キッチンスタッフが心を込めて作った料理のおいしさが高い評価を得たとしても、その店が人気店として継続し、繁栄していくかどうかは接客にかかっているといってよいでしょう。接客はお店の運命を握っているといっても過言ではないのです。
飲食店の接客の基本とは
まずは身だしなみから
最初に「おしゃれ」と「身だしなみ」を区別しておく必要があります。「おしゃれ」はあくまでも個人的な好みや考えに基づくものですが、「身だしなみ」はお客様など他人に対する誠意や礼儀の心から生み出されるものです。実際には重複する部分もあるかもしれませんが、飲食店で働く上では、しっかりと区別して考える必要があります。お店のマニュアルがあれば、それに従えばよいのですが、入店されたお客様に不快感を与えない・安心感を与えるような清潔感・控えめな上品さを自分で意識しておくことも大切です。
接客の心構えも大事
身だしなみは外見の問題ですが、それにつながる心構えも大事です。お客様に対して単純に料理と場所を提供するというのではなく、ゆっくりとくつろいでいただいて、最高のおもてなしと料理で楽しいひと時を過ごしていただくという積極的な誠意が必要です。形だけ・表面だけの誠意は、いずれ見抜かれ、不評につながりかねません。
接客の心構えを実際に表現する
お客様をおもてなしするための心構えを実際にホールでの勤務の中で表現していくことも大事です。せっかくの誠意もお客様に伝わらなければ意味がありません。
笑顔・表情
スタッフから明るい表情で対応されることはお客様にとっては最高の「おもてなし」となるでしょう。日常生活での笑いと違って、お客様をおもてなしして満足していただけることへの喜びから出てくる笑顔ですから、ある意味プロフェッショナルな笑顔ということになります。慣れと経験が必要かもしれませんが、すべてのホールスタッフが習得すべきスキルです。
態度・立ち居振る舞い
たとえばお辞儀一つとっても、気を使わなければなりません。日常的に近所の人とのあいさつでするようなお辞儀とはまた違って、腰を曲げる角度や手の位置など、プロフェッショナルな観点からのしきたりが求められます。お店のマニュアルなどをもとに、スタッフ全員で共通認識を持つことが大切です。
言葉遣い・接客用語
接客の心構えは接客の言葉使いにもつながらなければなりません。やはり日常では経験しない、プロフェッショナルな言葉使いが大事です。マニュアルをもとにして、まず必須の接客用語を習得し、やがてより幅広い会話での応用にまでスキルを高めていかなければなりません。
飲食店の接客での具体的なポイント
飲食店での接客に関してさらに具体的に確認していきたいと思います。
マニュアルの必要性
お店の接客のレベルをしっかりと確立するための土台として、マニュアルの存在は大きいです。マニュアルなしで接客の仕方を指導するとなると、個別指導も含めてかなりの時間とエネルギーを必要とします。まずマニュアルを読んで理解を図り、足りない部分・理解できない部分を補足指導するシステムにできれば、指導する側・される側の両者にとって大きな負担軽減となります。さらに、マニュアルによってスタッフ全員が同じレベルのしっかりとした技術や意識を共有できることになり、お客様に不快感を与えるような接客マナーのバラつきを修正することができます。
接客でやってはいけないこと
接客の場で気を付けるべきことがあります。集中力があれば防ぐことができますが、ふと気が抜けた瞬間に思わずやってしまう場合もあります。油断大敵です。確認しておきましょう。
1.聞き取れないほど小さな声での接客
2.お客様の質問に対して「わかりません」と答える
3.従業員同士のプライベートなおしゃべり
4.髪に手をやる
5.壁などによりかかる
6.腕組みをする
日常生活の中で何気なくしているしぐさでも、飲食店の接客の場ではタブーとされることがいろいろあります。接客の心に疑念を向けられるだけでなく、お店全体の評判にまで関わることもあるでしょう。日常生活の場ではなく、ある意味、ステージに上がっているような緊張感を持って勤務する必要があります。
お辞儀のしかた
お辞儀のしかたを確認しましょう。まず、背中が丸くならないようにまっすぐ伸ばして、肩に力が入りすぎないようにします。腰を曲げる角度は一般的に二通りあります。15度の場合と30度の場合です。お客様をお迎えしたりお見送りする時と、何か問題が発生して謝罪する時が30度で、それ以外は15度と考えてよいでしょう。両手を前に組みゆっくりと行うようにします。
接客7大用語を使う
接客用語の基本としてまず、接客7大用語をいつでも使えるようにしましょう。具体的には以下の言葉が該当します。
1.「いらっしゃいませ」
2.「かしこまりました」
3.「少々お待ちください」
4.「お待たせ致しました」
5.「申し訳ございません」
6.「恐れ入ります」
7.「ありがとうございました、またご利用くださいませ」
以上となります。接客をする立場であれば覚えておいて損はないでしょう。
お出迎えからお見送りまで/h3>
実際にお客様をお迎えしてからお見送りするまでの具体的な接客の仕方を確認してみましょう。
1.お客様に来ていただいた喜びを言葉に込めて「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」と応対する。
2.人数が確認出来たら「かしこまりました、席にご案内致します。こちらへどうぞ」と席まで案内する。
3.店内が満席の場合は「あいにく席がふさがっております」「申し訳ございません、こちらでお待ち頂けますでしょうか」など、状況に応じて対応する。
4.満席のためお帰りになるという場合は「申し訳ございません、またのご利用をお待ちしております」と、陳謝してお見送りする。
一般的な飲食店の場合、おおむね上記のような流れとなります。ただ、注意点があります。「申し訳ございません」というような場合もそのまま笑顔で対応すると、お客様は不愉快になるということです。謝罪の表情に切り替えるなどその場に応じた状況判断が必要になる場合もあります。
メニュー・オーダー・配膳
メニューはお客様が見やすいように上下に注意しながら開いた状態で渡します。基本的に一人に一冊ですが、小さい子供連れの場合は大人の数だけということになります。お店によっては初めからメニューがテーブルに置かれている場合もあります。
しばらくして、オーダーが決まったかどうかを確認。決まっていたらオーダーを一つ一つ聞きながら復唱し伝票に書き込みます。そして再度、オーダー内容をすべて復唱し、OKであればお辞儀をして引き下がるといった流れが一般的です。
完成した料理は冷めないようにてきぱきとお届けします。座席の形態にもよりますが、配膳位置を確認しながら、基本的にお客様の左手側から、料理を置いていきます。お客様の手とぶつからないようにという配慮です。そのとき、料理の名前などを説明することも忘れてはいけません。最後に、オーダーした料理がすべて届いているのか確認し、OKであればゆっくりしていただく旨を伝え、お辞儀をして引き下がります。
大事なことは、一つ一つの動作を無言で行わないということです。お客様に対して必ず説明や確認の言葉をかけながら、丁寧に行うことが大切です。ちなみに接客では「~でよろしかったでしょうか」という言い方がよく使われますが、正式には過去形は不適な場面ですので、「~でよろしいでしょうか」が妥当です。
会計・お見送り
会計の流れはまず、お礼の言葉を述べながら伝票を両手で受け取り、レジ打ちをします。そして、合計金額を伝え、料金を受け取りおつりを渡します。その際も決して無言ではなく、説明や確認の言葉を入れながら丁寧に行います。「領収証を」といわれたら、日付・宛名・金額、そして「~代として」という但し書きを丁寧に書き込み、認め印を押します。合計金額が5万円以上の場合は印紙を貼り、割り印を押す必要があります。最後に忘れ物がないか確認を促し、明るく元気な声でお見送りの挨拶をします。
以上がお出迎えからお見送りまでの接客の流れです。
飲食店の接客では基本と臨機応変の対応を
飲食店での接客は、お店の評判に大きな影響を与える大事な仕事です。日常生活と切り離し、お客様に満足していただくことを第一とする特別な空間だと考えて勤務する必要があります。ステージに立ってパフォーマンスをする演者のような意識が必要といってもよいかもしれません。お客様はおいしい料理と共に、誠意あふれる接客パフォーマンスを期待して来店されるのです。飲食店での接客はそれだけのやりがいが感じられる仕事でもあります。モチベーションを高めて臨んでみてください。