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オーナーシェフを目指すにはまずキッチンスタッフとして腕を磨こう

飲食店でキッチンスタッフとして働いている人、これから働こうと思っている人の中には、将来オーナーシェフになるということを目標として設定し、日々精進する人も多いのではないでしょうか。一国一城の主として、自らの手腕と真心でお客様に満足と喜びをお届けするという仕事には、大きな魅力と醍醐味が感じられることでしょう。今回はオーナーシェフにスポットを当てて見ていきたいと思います。

オーナーシェフとは

西洋料理店でキッチンをまとめる料理長の立場にある人がシェフです。これまでだとお店のオーナーは別の人で、シェフはそこに雇われている立場という形態の店が多かったようです。しかし最近ではシェフがその店のオーナーでもあるお店も増えてきています。経営面から考えると人件費が軽減されるという意味でも有利な形態と言えます。

自分の料理店を持ち、お店の経営と料理長という業務の両方を行っていくのがオーナーシェフです。食材の仕入れや仕込みから、調理・最後の仕上げチェックまで、キッチンでの業務をすべて管理。同時にスタッフの管理・売上管理などにおいても最終責任者の立場となります。過去の勤務経験と身に付けた能力のすべてを生かして取り組まざるを得ない重責に違いありません。しかし、お店で料理を楽しみ、心から満足されたお客様から、喜びや感謝の言葉を頂くことができれば、それは何物にも代えがたい力強いエネルギーとなることでしょう。

オーナーシェフになるためには

では、オーナーシェフへの道はどのようにすれば切り開くことができるのでしょうか。

料理人としての腕を磨く

まずは、料理人としての腕前をしっかりと磨く期間が必要です。修行年数に規定はありませんが、お客様に信頼されるレベルまで熟練を積み重ねていく覚悟は求められるでしょう。

専門学校・飲食店現場・海外修行など

料理人としての修行をスタートする場所の一つとして料理関係の専門学校・短大などで、学ぶ方法があります。講義と実習で料理を基本から学びます。なかには料理屋でアルバイトをしながら、現場経験を同時に積む人もいます。
授業料の負担はありますが、希望のコースで基本から手際よく学べる利点があります。

いきなり現場の見習いからスタートする方法もあります。専門学校などのような教育的指導は望めませんが、お客様がいる実戦の現場での修行は意義深いです。また、国内である程度腕を磨いた後フランスなどの本場で修業を積むという方法もあります。

シェフかスーシェフの経験は大きい

オーナーシェフになるためにどれだけの経歴が必要だという規定はありませんが、やはり有名レストランなどの前の職場で、スーシェフかシェフとして勤めた経験があるとかなり有利です。そこまでの経験の中で料理に関する能力だけでなく、スタッフの統率力や、状況判断力など様々なテクニックを身に付けてきていることが予想されます。それらはオーナーシェフとなったときに大きな力となることでしょう。

経営手腕も必要

経歴を積み重ねてオーナーシェフにふさわしい実力を身に付けたとします。ですが、それだけでは不足です。オーナーシェフとなるからには、調理の責任者としての実力だけではなく、お店全体の運営を管理する手腕も必要になります。調理以外にオーナーシェフとしてやるべきことを紹介します。

経費などの管理を徹底

レジでのお金の出し入れなど、表の動きだけではなく、人件費、食材の仕入れ費用、光熱費、家賃などすべてのお金の動きを管理することが大切です。日々の忙しさに追われて、お金の出し入れの記録を取ることを忘れてしまいかねませんが、アプリやテンプレートを利用して負担軽減を図りながら毎日続けていくべきです。そして数字化されたデータの中から改善すべき問題点を発見し、よりよい経営状態へとつなげていかなければなりません。

お客様のニーズを見抜く

料理やメニューに関するお客様の希望や感想を、アンケートやお客様とのコミュニケーションを通じて把握することも心がけるべきです。お客様のニーズに合わせて臨機応変に対応していくやり方は経営安定への大きな力となることでしょう。

スタッフ教育も大切

オーナーシェフがキッチンでの業務に追われるような場合、お店の顔となるべき接客はホールスタッフに任せなければなりません。スタッフがオーナーシェフのコンセプトやお客様に対する誠意をしっかりと理解して、理想的な接客をしてくれるかどうかは大事なところです。キッチンスタッフの場合もオーナーシェフの意を汲む働きができるのかどうかも重要です。お店の安定した運営のためには、スタッフへの教育は大きな課題となります。

先人オーナーシェフをご紹介

オーナーシェフとして活躍している人たちの軌跡を紹介します。同じようにオーナーシェフを目指す人にとって何らかの参考にしていただければ幸いです。

「マ ユッカ」植田祐加(うえだ ゆか)

植田祐加さんは高校3年の時のフランス旅行を機にフランスに興味を持ったそうです。そして、フランスで料理が学べるコースがある「エコール辻」へ入学。希望通り同校のフランス校へ移り、一流シェフを多数輩出したことで名高いお店「アラン・シャペル」で修業しました。フランス校卒業後もカンヌ郊外の「ロアジス」やアルプス山中にあるスキーリゾートの高級レストランで修業を重ねました。

22歳のときビザの関係で一時帰国を余儀なくされますが、フランスを感じることができる場所で働きたいという気持ちは変わらなかったそうです。そこで東京神楽坂にある、フランス政府運営のフランス語学校の中にあるレストランに勤め始めました。そしてやがて「グランドハイアット東京」へ。そして資金がたまると再び渡仏し、カンヌのレストランへと、着実に修行を重ねました。そして28歳で労働ビザを取得すると、カンヌにある五つ星ホテルのレストランのシェフとして採用されました。そこで和風とフレンチのフュージョン料理の創作を続けていく中で、オーナーシェフになることへの自信が生まれてきたのだそうです。

もともとは、30歳になったら地元である静岡に戻ってお店を開くことを考えていたそうです。そして協力者となる予定の妹がフランスで1年間の修業を終えるのを待っていましたが、その妹までフランスの魅力の虜になってしまい、結局フランスでオーナーシェフになる事を選びました。場所としては、映画祭の時だけにぎわうカンヌより、年中の集客が見込めるニースを選び、姉妹の名前を取った「Ma yucca(まゆっか)」というお店をオープンさせました。2011年3月のことでした。

そして驚くべきことに、お店は開店早々に、世界最大と言われる旅行関連の口コミサイト「トリップアドバイザー」によるランキングで、ニース全体のレストラン約900軒の中で3位を獲得するという偉業を成し遂げてしまったのです。お店のコンセプトは「franco-japonais」ということで日本とフランスの素晴らしさを見事に調和させた理想的な料理を追求しているということです。さらに翌年には和雑貨の店もオープンし、次の年にはレストランと和雑貨店を同じフロアでの併設の形態にしています。

「ゴーシェ」齋藤勉(さいとう つとむ)

専門学校を卒業した後、19歳の時にフレンチ・レストラン「エヴァンタイユ」で本格的な修業を始めた齋藤 勉さん。そのころから「35歳で独立してオーナーシェフになる」という決意をすでに持っていたそうです。それから逆算することで「シェフの修行をしなければいけない」とか「フランスでの修行も必要だ」というようにやるべきことを考えていました。そして実際にフレンチレストランで10年ほど修業し、日仏料理協会の紹介でフランスに渡り、リヨンとバスクのレストランで3ヶ月ずつ修行を積みました。

帰国後、再び日仏料理協会の紹介により、横浜のフレンチ・レストラン「リパイユ」でシェフとして働き始めました。これには日仏料理協会の「経営のことを学べるなど、オーナーシェフになるための勉強ができる環境」という配慮によるものでした。ここで3年間勤め、35歳で独立するつもりでいましたが、この店で学べることが多く、素晴らしい勤務体験であることを実感したため、さらに2年延ばし5年間勤めました。

そしていよいよ、予定より2年遅れの37歳の時(2014年)、六本木に「ゴーシェ」をオープンしたのです。「おいしくてボリュームもあるのに料金はリーズナブル」ということで、雑誌・ネットでも紹介され、評判を呼んでいます。ただ、その評判は奥様の献身的な接客も要因の1つであるようです。

「ル モンド グルマン」嘉藤貴士(かとう たかし)

高校時代に飲食店でのアルバイトを経験し、料理を作ることの楽しさを知った嘉藤貴士さん。その後、大学へ進学しましたが、料理の世界に入るのなら早い方がいいと考え、大学を中退後、地元兵庫県でフランス料理の修行を2年半ほど積みました。その後21歳で上京し、「タイユバン・ロブション」などで修業を重ねました。その中で、フランスで修業を積んだ先輩たちと数多く出会い、刺激を受け、本場修行の大切さを確信したのだそうです。

そして、実際に渡仏し約3年に渡る修行を積みました。そのなかで、「日本ではわからなかった、本場の旬の食材の素晴らしさ」、「フランス国民にとってのフランス料理の身近さ」、「キッチンでの上下関係は、勤務終了後はフランクな関係に早変わりすること」などを体験したということです。

帰国後は数々の超有名店でシェフとしての熟練を積み重ねていきました。その中で「いつかはオーナーシェフに」という考えをいだくようになり、39歳で再びフランスに渡ります。そこで、最初の渡仏時よりも大きな視野でフランス料理の世界を見つめ直し、幅広く質の高い体験を積むことができたそうです。奥さんも同伴ということで、休日に美術館など有名スポットへ出かけたりして、精神的な余裕もあったようです。そんななかで「日本に戻ったらオーナーシェフになるぞ」という決意が固まってきたのだそうです。

そして、帰国。2年ほど経営について学んだ後、2015年、自由が丘に「ル モンド グルマン」をオープンさせました。「日本と違ってフランスでは、フランス料理はそれほど敷居が高くない事」「キッチンでは厳しい人間関係がプライべートではフランクになること」など、フランスで体験した「原点」を大事にしつつ、お客様にとってもスタッフにとっても理想的なお店を目指しているのだそうです。

飲食店で腕を磨きオーナーシェフを目指そう

西洋料理の修行を積み重ねてレストランのシェフになる。それは生易しいものではありません。一流の調理技術を身に付けるのに、かなりの努力と忍耐が必要となることでしょう。そしてその上に、経営者としてのスキルも身に付けてオーナーシェフになるということは、さらに大きな苦難を乗り越える覚悟がないと達成できない偉業なのかもしれません。でもそれを成し遂げた先人はいます。ここで紹介した人たち以外にも、苦難を乗り越えて偉業を達成して、しかもさらなる進歩を目指している先人オーナーシェフはたくさんいるのです。一朝一夕に達成できることではありませんが、先人の足跡を、日々の勤務のモチベーションのエネルギーにすることはできます。そしてそれをコツコツと積み重ねた結果が将来の「偉業」を実現することでしょう。

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